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職場での新型コロナウイルス感染と労災申請

仕事が原因で新型コロナウイルス感染症を発病した場合は、労災申請を労働基準監督署に行うことが大切です。
会社や監督署で労災は無理といわれたら名古屋労災職業病研究会にご相談ください。

労災が認められると、治療費等の療養給付や働けない期間の休業補償が支給されますし、亡くなった被災者の遺族には遺族補償が支給されます。

新型コロナウイルス感染症の労災申請と当団体への相談を通じて考えたことを掲載します。

あいつぐ職場での新型コロナクラスター
 昨年12月下旬、茨城県常総市の食品加工工場で新型コロナウイルス(COVID-19)の職場での集団感染が発生したことが報道されました。1月11日現在、この食品加工工場では47人の労働者の感染が判明したことを地元の茨城新聞が報道していますが、感染した労働者の大半は外国籍ということです。
 昨年7月上旬から8月上旬にかけて熊本県長洲町にある造船所、ジャパンマリンユナイテッド有明事業場で112人の新型コロナウイルスの集団感染が発生しました。全感染者のうち45人がベトナム人技能実習生であったことが報告されています。この造船所では従業員と協力会社合わせて2400人が働いていました。
 12月1日現在、熊本労働局管内の新型コロナウイルス感染症の労災申請件数は20件(うち支給決定件数18件)で、有明事業所の労働者からの労災保険申請は行われていないことがうかがえます。

新型コロナの労災認定基準
 昨年4月28日、厚生労働省は「新型コロナウイルス感染症の労災補償における取扱いについて(基補発0428第1号)」という通達を全国の労働局に向けて発出し、新型コロナウイルス感染症の労災認定基準を明らかにしました。
 この労災認定基準の具体的な取扱いの箇所を参照すると、「複数(請求人を含む)の感染者が確認された労働環境下での業務」、つまり、クラスター(感染者集団)が発生した職場での業務に従事していた労働者については、調査により感染経路が特定されない場合であっても、感染リスクが相対的に高いと考えられ、業務により感染した蓋然性が高く、業務に起因したものと認められるか否かを個々の事案に即して適切に判断するとあり、労災認定される可能性が高いことが分かります。実際、厚労省が公表している労災認定事例の中に、新型コロナウイルスに感染している同僚と同じ作業車に同乗していて新型コロナウイルスに感染した建設作業員が労災認定されたことが紹介されています。このことから、茨城県常総市の食品加工工場で新型コロナウイルスに感染した労働者や、熊本県長洲町の造船所で新型コロナウイルスに感染した労働者が労災保険の申請を行った場合、認定される可能性は高いと言えるでしょう。
 なお、厚労省の労災認定事例の中には、小売店舗の店頭で商品説明などの接客業務にあたっていた販売員の労災認定事例が紹介されており、コンビニなどで働く労働者が新型コロナウイルス感染症を発症した場合は労災認定される可能性があります。この他、新型コロナウイルスに感染した客が来店したことからクラスターが発生した飲食店で働いていた飲食店店員の労災認定事例も紹介されています。
 労災申請を行い、労災が認められると、治療費等の療養補償給付や働けない期間の休業補償が支給されますし、新型コロナウイルス感染症が重症化し亡くなった被災者の遺族には遺族補償が支給されます。

全国の労災請求状況
 1月22日現在、厚労省の公表している全国の新型コロナウイルス感染症に関する労災請求件数は医療・介護従事者の請求件数が2818件で、医療・介護従事者以外の労働者からの請求件数が818件です。全国の感染状況を鑑みると決して多い労災請求件数ではなく、労働局、労働基準監督署からクラスター職場などへの労災保険の請求勧奨がもっと必要な状況です。
 医療・介護従事者からの労災請求が多いのは、前述の新型コロナウイルス感染症の労災認定基準において、医師、看護師、介護従事者が新型コロナウイルスに感染した場合は、業務外で感染したことが明らかである場合を除き、原則として労災保険給付対象となっているからだと考えられます。

看護師、医療事務員の事例
 先日、比較的大きな病院に勤務する新型コロナウイルスに感染した看護師の方から相談を受けました。PCR検査で陰性となった後、職場に復帰しましたが、頭痛、吐き気などが継続し、体がいうことをきかず勤務出来なかったことから再び休業したということでした。
 労災申請への協力を勤務先病院に依頼しましたが、上役の看護師より断られました。上役の看護師からは、「あなたが感染を拡げた」ということも言われました。この相談者の働く病院では、患者や看護師に新型コロナの感染者が出ているということでした。筆者は、労災保険の申請は事業場の証明無しで出来ることをこの看護師に伝えました。
 医療、介護労働者については働いている事業所内に他に新型コロナウイルス陽性者がいなくても、業務外で感染したことが明らかでない場合は労災認定されます。もし、事業所内の新型コロナウイルス感染症の陽性者が自身(請求人)しかおらず、事業所から労災申請を断られてしまった場合でも、労災認定基準では、医療、介護従事者が新型コロナウイルスに感染した場合は、業務外で感染したことが明らかである場合を除き、原則として労災保険給付の対象としていることから、事業所内の陽性者の有無にかかわらず申請に協力するよう事業場に理解を求めることが肝心です。
 病院で医療事務として働く労働者からも相談を受けました。新型コロナウイルスに感染して入院した後、職場復帰しようとしましたが、強い倦怠感など新型コロナウイルス感染症の症状が継続し休業を続けています。
 9月下旬に労災申請しましたが、年が明けてもまだ認定されていないということで相談に訪れました。勤務先病院が労災申請に非協力的で関係書類を労働基準監督署に提出するのが遅れたということも原因として考えられましたが、労災の給付調査を担当する労働局職員から「通勤で感染したかもしれないのできちんと調べる」ということも電話で伝えられており、調査に時間がかかっていることもうかがえました。
 看護師などが新型コロナウイルスに感染した場合は、前述の医療介護従事者の労災認定基準が適用されますが、病院で医療事務として働く労働者が感染した場合は、医療介護従事者以外の労災認定基準が適用されます。業務による蓋然性が高く、業務に起因したものと認められるか否かを、個々の事案に即して判断することとなっており、複数(請求人を含む)の感染者が確認された労働環境下での業務であるとか、顧客との近接や接触の機会が多い労働環境下での業務であるかなどが調べられるため、医療事務員の労災調査は、看護師・介護職などと比べ時間がかかっていると考えられます。
(事務局 成田 博厚)

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